Design story ~Archi Skin(アーキ・スキン)~

2013年(第15回)福岡デザインアワード 大賞受賞

株式会社 マイサ
石生 学 さん
 
「照明1個でダメなら、“ビル1棟”をまるごと光らせられるものを。」



マイサは、商業施設や病院といった建造物のインテリア、外装、サインをデザインから施工まで担う会社。石生さんは、建築業界が厳しかった時期に、本業の売上を補うべく立ち上がったプロダクトデザイン事業を担当していました。

「本業とは少し離れた自社商品を開発するにあたって、開発のヒントを得ようと、福岡県産業デザイン協議会のワークショップなどに積極的に参加していました。《HA-RU》というインテリアステッカーや《NO SWITCH》という防災雑貨を作って百貨店や雑貨店に卸していました。その中でチャレンジしたのがこの照明器具です。レーザーカットを施したアルミのフレームを内側から光らせています。」





「でもこれがまったく売れなくて(笑)。『失敗だったかな』と思ったりもしたのですが、この照明器具の“中から光が漏れてくる感じ”が個人的に好きだったこともあり、あきらめきれなかったのです。ならば“スケール感を変えてみよう!”と思い、『小さな照明1個でダメなら、ビル1棟を光らせられるものを作ったらどうだろう』とひらめきました。そこから工場と相談し、規格や販売方法を検討。その結果、生まれたのが《Archi Skin》です。」



《Archi Skin》は、レーザーカットで意匠を施したアルミ製パネルで建物全体を覆い、まるごと装飾できる建築資材。中から照明で照らすと、建物自体が切り絵のような幻想的な光を放ちます。逆に、昼間は切り取った意匠から差し込む日差しが、建物内に木漏れ日のような美しい影を落とします。装飾効果だけではありません。外からの目隠し効果や、直射日光を遮り室内の熱効率を高めるなど、実用面でもうれしい効果が期待できるのです。この外装資材を90㎝角で規格化し、商品化。豊富な意匠パターンから好みのものを選べる上に1枚からでも購入できるため、比較的安価に、自由度の高い建造物装飾ができるのが特徴です。



また、そのデザインの特殊性で人気が高い《Archi Skin》の意匠パターンは、常時20種類ほど。人気のデザインに加え社内コンペで選ばれた新作パターンを随時導入し、売れ行きにあわせて入れ替えを行うため、常に新しいデザインを提供することが可能です。

《Archi Skin》開発にあたって、苦労などはあったのでしょうか?

「インテリア雑貨から建築資材へ開発の視点をシフトしたことで、基本的には、苦労より本業の知識や販売ルートを生かせるというメリットしかありませんでした」と石生さん。

一番のメリットは、開発する前から、設計事務所など具体的なユーザーの顔を想像しながら企画を進めることができたので、ユーザーの意見・要望を取り込んだ、即戦力のある製品に改良ができたこと。第二のメリットは、建築資材だと在庫を抱えなくて済む受注生産が可能であったこと。さらに、雑貨に比べて成約時の利益が格段に大きいことも大きなメリットでした。《Archi Skin》の売り上げは、初年度こそ1千万円に及びませんでしたが、2013年の福岡デザインアワードの受賞後は、3年目で6千万円に達し、昨年はついに1億円を突破しました。



「当初想定していた改装案件だけでなく、新築物件でのニーズの高さにも驚いています。デザインのバリエーションが多く、建物に応じてサイズ変更ができるので、建築設計者にも重宝がられます。建築施工のノウハウとデザイン力を持って製作をコントロールできる建築に特化した会社は少ない。そこが、わが社と他社との大きな違いなのではないかと思います。」


最後に、石生さんが思う商品開発におけるデザインとは何でしょう?

「デザインには<グラフィック>や<装飾>という意味だけでなく、<設計>という意味もあります。つまり、デザイン(設計)のない商品は存在しません。“誰が誰に売るのか” ユーザーの顔を思い浮かべながら設計すると、おのずと商品のデザインも見えてきます。資金・生産体制・形態・価格など企業ごとにクリアすべき条件も違いますが、だからこそ頭を柔らかくし、すべてをクリアできる形を考えることが、会社独自の商品開発、オリジナルデザインにつながるのではないでしょうか。」



株式会社 マイサ
福岡市中央区警固2丁目18-7 ふじたビル4階
http://www.mysa.co.jp/
 
取材日:平成29年11月13日