Design story ~ヘアケアピュアローション《椿なの》《椿なのリペア》~

2011年(第13回)福岡産業デザイン賞(デザインアワード)大賞受賞

 

株式会社オーラテック

江口 俊彦さん  江口 さだ子さん

 

自社の特許技術を化粧品に応用。デザインの力で商品の本質を伝える。

 


 

 久留米産の上質な生搾り椿油と、小豆島産のオリーブ油、そして水。椿なの》《椿なのリペアは、この3つのシンプルな原料だけで作られる、100%無添加のヘアケア商品です。これは、久留米市に本社がある株式会社オーラテックの江口俊彦社長が開発した、界面活性剤なしに水と油を混ぜ合わせるという独自の特許技術から生まれました。

 本来、オーラテックの生業の本丸は、自社特許技術マイクロバブル技術を搭載した排水処理装置や、魚の養殖用機材といった業務用機材の開発・販売です。そしてこのような技術を応用したシャワーヘッドの開発が、《椿なの》シリーズの誕生へつながったと言います。ある日、シャワーヘッドの販売で知り合った美容関係者から、「マイクロナノバブル技術で<水>と<油>を混ぜられないか」と相談が持ちかけられたのです。
 

 

 「マイクロナノバブル技術を使い、油の粒子を小さくできたとして、本来は決して混ざり合うことがない<水>と<油>を分離しない状態で混ぜ合わせることができるのか”…この開発は、そんな単純な好奇心からはじまりました。もし、これが実現できれば、少なくとも肌に悪い界面活性剤の量を減らすことはできるだろうと思っていましたが、実験の結果は予想以上でした。先に述べた仮説どおり、油の粒子をナノサイズにまで小さくすることで、界面活性剤を一切使わなくても、<水>と<油>は混ぜ合わせることができると分かったのです」。

 

 

 「苦労したのは、試作機からスケールアップさせ、実用化することでした。装置が大きくなればなるほど、油の粒子を均一に小さくすることが困難になるからです。粒子の大きさが不揃いだと、小さい粒子が大きい粒子に飲み込まれ、油が合一し、結果、水と油が分離してしまうのです。」

 

ナノサイズに微粒化された椿油がきれいに水と混ざり合っている状態の《椿なの》。右は、<水>と<椿油>を混ぜ合わせただけの状態。<水>と<椿油>が分離しているのが分かる。

 

 江口さんは、何度も失敗を繰り返しながら、その原因を日夜検証し続けました。そして、ついに20ℓの混合装置の開発に成功したのです。「しかし、この技術は非常にデリケートで、かかる手間も大きいためこれ以上のスケールアップは考えていません。通常の化粧品メーカーだって、たとえこの技術や作り方を知り得たとしても、界面活性剤を使わなくていいというだけでこんな手間も時間もコストもかかる化粧品づくりなんてきっとやらないでしょうね。() 彼らは常に6001000ℓのタンクで原料を調合するのが普通ですから。」

 

 こうして、江口社長が開発した技術を《椿なの》シリーズとして商品化し、ブランディングにまで高めたのが、同社の事業部長であり、社長夫人でもある江口さだ子さんです。

 


 「当初は大島産の椿油を使っていたのですが、開発中、ちょうど久留米市草野地区で生搾りの『久留米椿油』が作られ始めたことを知りました。そこで『ぜひわが社の商品に使わせていただきたい』と、すぐに担当者に連絡しました。せっかく天然素材だけで作るのですから、生産地が明らかな安心安全の原料を使いたいと思ったのです。また《椿なの》は、水の特殊処理と低温殺菌により防腐剤も無添加にも関わらず、長期保存できるのも特長です。商品のパッケージやボトルは、デザイナーが提案してくれたものの中から椿のモチーフと、無添加のナチュラルさが伝わりやすい案を採用しました。」
 

 さらに、福岡産業デザイン賞の大賞受賞については、興味深いエピソードを聞かせてくれました。

 

 
 「実は、もともと特許技術を持っていたマイクロバブル・シャワーヘッドでも、福岡産業デザイン賞にエントリーしたことがあるのです。その時、商品デザインからパッケージデザインまで、審査員の方々には非常にストレートなアドバイスをいただきまして(笑)。当時は『かなり手厳しいな』と悔しい思いもしたのですが、今、ふり返れば、それが《椿なの》シリーズの大賞受賞につながる原点だったと思えます」。

 指摘されたポイントは、まずその商品が使われる場所にふさわしいデザインであるかということ。次にそのパッケージデザインが商品のクオリティをちゃんと伝えるものであるかという視点でした。「デザイン次第では、商品の真価を伝えられず、結果としてビジネスチャンスを逃しかねない」といった、デザインに対する基本姿勢を見直す絶好の機会になったのです。

 そんなさだ子さんの今後の夢は、「化粧品のOEM(受託製造)を増やすことで、オーラテックならではの技術を生かした化粧品をより多くの人に使ってほしい」というもの。自社の販売力だけでは販路拡大にも限界が見えるからです。

 一方、「シャワーヘッドをもっと進化させていきたい」と言うのは江口社長。「大切にしているのは自然のもの マイクロナノバブルの技術を使うことで環境に負担をかけず、自然の力で健康や美容効果を促進できるような商品を、これからも開発していきたいですね」と抱負を語ってくれました。

 

新しい技術の開発はいつも「純粋な好奇心から始まる」という江口社長。事務所の壁にはオーラテックのもつ特許と商標登録の数々がずらり。江口社長が研究にかける情熱の証です。




 

株式会社 オーラテック

久留米市津福本町1725-2

http://aura-tec.com/

 

取材日:平成30年3月6日