Design story ~ecopo(エコポ)~

2005年 第7回 福岡デザインアワード 大賞受賞

 

田川産業 株式会社 

行平 信義 さん

 

「進化を遂げる『漆喰(しっくい)』の可能性を伝えたい」

 

大正13年の創業以来、佇まいもほとんど変わらないという工場周辺にて。背景は、今では殆ど見られない軽質炭酸カルシウムの天日乾燥棚。炭酸カルシウムを含め、ほとんどのものが昔ながらの製法で作られている。

 

 《ecopo(エコポ)》は、もともと九州工業大学の伊東啓太郎教授が、大分県日田市の左官職人と一緒に進めていた研究の対象。土漆喰はそれ自身が調湿性を持つため、植木鉢に用いれば植物にとってよりよい快適な環境を作る。さらにそれに肥料成分を混ぜることで、肥料がじわじわと植木鉢から放出され、植物の生育を一段と良くする器となる。この研究成果を商業化に応用できないかと、かねてから製品の研究開発において交流のあった九州工業大学が漆喰専門会社・田川産業を訪ねてきたのが始まりでした。

 

 

「土漆喰を使った植木鉢という発想は面白かったのですが、当初試作されていた植木鉢はかなりサイズが大きく、そのままで商品化するのはちょっと難しいと感じました。そこで<成形して乾かすだけ><焼かなくていい>という漆喰の特徴を活かしながら、植木鉢を作る材料そのものをDIYのキットとし、自分で作る楽しさを売ってみるのはどうか、と逆提案したのです。」と行平さんは当時を振り返ります。

 

土漆喰ならではの<焼かなくていい>性質を生かしたDIY植木鉢キット。

 

水を入れてこねると粘土状に。

 

「そこからは<具体的にどういう素材を組み合わせるか><どういうパッケージにするか>など、商品化へ向けた具体策を詰めていくことに。パッケージデザインは、伊東教授の知り合いのデザイナーさんにお願いしたのですが、商品を並べると、その箱に描かれたモチーフデザインが『(一つの絵に)つながる』という、遊び心あふれるものになっています。」

 

遊び心から生まれた自分で作る楽しさ。それが巧く表現された《ecopo(エコポ)》のパッケージデザイン

 

 「今でこそ『デザインの重要性』を強く意識するようになりましたが、以前は、正直そんなことなど考えたこともありませんでした。というのも、我々はもともと『素材屋』。漆喰は、いわば粉という素材であり、それを売るのが我々の仕事だからです。ですから、漆喰を塗って形にするのは左官職人の仕事、“それをどう使うか”といったことなどは、設計士やデザイナーの考えること。そんな風に思っていたからです。」

 そんな行平さんの意識を一変させたのが、2003年の福岡デザインアワード優秀賞とグッドデザイン賞特別賞の受賞。加えて、2007年に「第2回ものづくり日本大賞」で内閣総理大臣賞を受賞した自社製品《Limix》の開発もその背景のひとつ。

 

「真空超高圧成形」という技術で「漆喰を成形」することから生まれた漆喰タイル《Limix》。不焼成にも関わらず、まるで大理石のような質感と強度をもち、さまざまな意匠を加えられる。

 

 「《Limix》という形ある建材を創り出したことで、それまでただの『素材屋』だった私たちの意識はガラッと変わりました。まず、その大きさ、形、テクスチャーを伝える必要性が出てきたのです。また、それまで誰も見たことのない《Limix》の使用用途を、まず設計士やデザイナーにイメージしてもらえるよう、その使い方を彼らに提示しなければならなくなったのです。」

 この素材を“どうやって売るか”、“どうやって認知してもらうか”。夜も眠れないくらい考えているうちに、この商品のコンセプトを伝えるには“デザインの力が必要だ”と思うようになったといいます。

 さらに、そんな想いを後押ししたのが、《Limix》を開発した時の気づきでした。《Limix》の概要書を兼ねた会社案内を作ることとなり、プロのデザイナーに制作を依頼したところ、アマチュアとプロが作るデザインの間には、クオリティ・仕上がりの完成度に雲泥の差があることを痛感したそうです。

 

 

 「会社案内は、それまで当然のように思っていた、細かな当社の説明を排除。代わりに私たちの日々の様子、仕事場の風景写真といったビジュアルをメインに構成されていました。あまりのシンプルさに、“ちょっと尖がりすぎじゃないか”とも思ったものです。しかし、これが国内でも海外でもどこに持って行っても評判がいいのです。『デザインとは、できあがった冊子の見栄えだけでなく、それを渡す折に、一緒に伝わる会社の日常、社員の営み一つひとつからイメージとして発信されていくもの』というプロデューサーの考え方も非常に勉強になりました。」
 

 今や独自の美学とともに、漆喰の新たな魅力と可能性を発信し続ける行平さん。今後の夢や展望とはどんなものなのだろうか。

 「《ecopo(エコポ)》は漆喰の魅力の一端を伝えるメッセンジャーのようなもの。漆喰でできる可能性を、もっと多くの人に知ってもらい、暮らしのさまざまな場面で遊んでもらいたいと思っています。ただ、ビジネスとしては、今後いかに建築資材としての漆喰の良さを世間に知ってもらうか、実際に建築の現場で使ってもらうか、が課題です。そのため『日本漆喰協会』では、さまざまな性能実証にも取り組んでいます。また、工賃などコスト面でのハードルを下げるため、当社では素人でも簡単に塗れるDIY用の漆喰もこの春発売予定です。」

 「漆喰は決して過去のものではありません。現代においても、環境に優しく、機能性の高い建築資材として独自の進化を遂げています。そんな日本の漆喰技術を、我が国の文化の一つとして海外へも発信していきたいと思っています。」

 


 

田川産業 株式会社

田川市大字弓削田1924番地

http://www.shirokabe.co.jp/